末武信宏 香川晃一 李勇鎬
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はじめに
包茎に関する情報があふれている現在,包茎で悩んでいる男性の数は,過去のものと比べ多くなっているのは明らかである。
包茎手術を受けようとする患者にとって共通する希望は,
①手術時の疼痛が少ない,
②短時間で手術が終了する,
③通院回数が少ない,
④傷跡が目立たないということである。
しかし手術を行う医師にとって重要なことは,出血・感染・壊死等の合併症が少なく安全で確実な手術方法が望まれる。
また,美容外科として包茎手術をとらえた場合,傷跡を極力目立たないようにする手術方法が強く望まれる。
今回われわれは過去半年間に当院で手術を行っ た患者の臨床的検討を行い,当院の手術手技と共に若干の考察を加えた。
包茎手術の臨床的検討
1. 包茎の分類
1)真性包茎 1)真性包茎
2)絞約性包茎 2)仮性包茎
3)仮性包茎 3)中等露出
2. 包皮に関する年齢別調査
表1 包皮に関する年齢別調査
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50歳以上 | 計 | 宮内報告 | |
真性包茎 | 3(4.7%) | 2(2%) | 1(4.8%) | 0 | 6(2.4%) | 20(0.42%) |
仮性包茎 | 16(25) | 33(32.7) | 15(26.8) | 2(6.9) | 66(26.4) | 863(18.02) |
中等露出 | 12(18.8) | 16(15.8) | 11(19.6) | 10(34.5) | 49(19.6) | 886(18.50) |
完全露出 | 33(51.6) | 50(49.5) | 29(51.8) | 17(58.6) | 129(51.6) | 3,020(63.06) |
計 | 64 | 101 | 56 | 29 | 250 | 4,789 |
稲葉博士の資料(表1)によると約50%がいわゆる包茎状態,このうち手術がすすめられるものは,どの年代も真性包茎・仮性包茎を合わせた約30%である。
3. 陰茎の大きさと体重との関係
表2 陰茎の大きさと体重の関係(勃起時)
体重別
(kg) |
人員 | 平均体重
(kg) |
平均陰茎長
(cm) |
平均陰茎周
(cm) |
平均陰茎容積
(cc) |
50以下 | 6 | 47.1 | 13.1 | 11.1 | 128.5 |
51~55 | 18 | 53.4 | 12.2 | 12.0 | 139.9 |
56~60 | 45 | 58.6 | 13.5 | 12.6 | 170.6 |
61~65 | 67 | 63.3 | 13.6 | 12.9 | 180.2 |
66~70 | 56 | 68.6 | 13.5 | 12.8 | 176.1 |
71~75 | 41 | 72.8 | 13.4 | 13.2 | 185.9 |
76~80 | 15 | 78.5 | 13.2 | 12.9 | 174.9 |
81以上 | 2 | 88.0 | 13.2 | 13.4 | 188.7 |
計(平均) | 250 | 65.2 | 13.4 | 12.8 | 174.8 |
(表2)によると,平均陰茎長は体重とは無関係だが,平均陰茎容積・平均陰茎周は体重と正の相関関係をもつといえる。しかし obesity がある者は,腹部脂肪組織内に陰茎が陥入し,見かけの陰茎長が短くなるといえるため,この体重はあくまでも正常体格の者を対象にした資料である。陰茎容積の測定方法は次のとおりである。
容積=円周率×(陰茎周/円周率×2)2×陰茎長
4. 当院での手術手技
仮性包茎では亀頭下環状切除法を行っている。
(1) 勃起時を基準に余剰包皮の切除ラインをデザインする。包皮小帯は残すよう心掛けるが,経験上切除しても感覚の低下は認められない(写真1,2,3)。
(2) 次に0.5%エピネフリン加 Xylocaine 約3~6ccで局所浸潤麻酔を行う(写真4)。
(3) メスにて切開を行う(写真5)。
(4) Lead SR-50バイポーラーコアグレーターで小血管を直視下で確認し,凝固止血を行いながら皮下組織の剥離をメスによる切開部に沿って行う。これで容易に包皮が剥離除去できる(写真6)。
(5) 余剰包皮を切除し,ハイアミン, イソジンで創部を消毒(写真7)。
(6) 縫合は4-0または5-0クロミックによる連続縫合(写真8)。
(7) 術後の傷跡は亀頭冠と包皮の間に隠れる(写真 9,10,11)。
(8) 術後ドレッシングとしてイソジンゲル,包皮に炎症がある場合はクロマイP軟膏を創部に塗布しガーゼを円周状に巻き,その上を伸縮包帯で,軽く圧迫固定する。
(9) 術後6日目に患者自身に包帯をとってもらい,イソジンで消毒させる(写真12)。
(10) 一般泌尿器科で6年前に手術を受けた症例。傷跡が中枢部にあり目立ちやすい(写真13)。
5. 術後合併症
1) 血腫:術後の感染・壊死・局所の硬結を残す原因となる。最近経験した症例であるが,術後15日目に,腫脹を創部より出血を訴え来院。患者本人は手術当日より腫脹があるのも放置,3/4周はすでに創部は完全に癒着,1/4周が哆開し,ここから凝血塊がにじみ出ており, bleeding point は認めず巨大血腫が形成されていた(写真14)。
凝血塊を創部より除去し,生食+アミカシンで創内の洗浄を繰り返し創部を3日間開放し3日後に5-0 nylon 糸にて縫合。術後26日目(写真15)巨大血腫が2週間も放置されたが,幸い皮膚の necrose を起こさず,若干の硬結を背側に残すも勃起時障害を認めず治癒。
陰茎の皮膚は circulation が良好で小さい血腫ならそのまま放置しても吸収され治癒するものと思われる。ただ巨大血腫はできる限り早期に除去すべきである。特に高血圧のある患者には注意すべきである。
2) 浮腫:術後圧迫包帯除去後,つまり2,3日後創部を中心に浮腫が出現しやすい。特に包皮小帯近傍に出現しやすい。真性・絞約性包茎で包皮に炎症があるため浮腫で出現しやすい。
3) 壊死:広範囲の壊死はまず起こり得ない。血腫形成が原因の1つとなる。
4) 感染:現在までに1例の経験もないが,糖尿病患者に十分な注意が必要, circula-tion 良好な部位であるため感染は起こしにくい。
5) 哆開: obesity 患者の背側部の哆開を1例経験した。obesity 患者の場合,陰茎が腹部脂肪組織へ陥入し包皮が再び亀頭へかぶり,めくり返ることになる。このためobe-sity患者の場合,背側部の哆開が起こりやすいといえる。腹側部の哆開も2例経験した。包皮小帯近傍には血管が多く出血しやすいため小さい血腫が形成され部分的皮膚壊死が起こりやすく,哆開を誘発すると考えられる。
まとめ
包茎に悩む患者にとって包茎手術は,患者の心理面もよく理解し術前術後の処置をすることが望ましく,手術時再診が必要と思われる患者には,積極的に再診を促すべきである。
合併症の防止には術中の配慮のみならず,術後の処置も重要である。包茎手術を美容外科手術として行うかぎり傷跡に対しても十分配慮できる手術手技をとるべきである。
執筆者である末武信宏先生(さかえクリニック院長)のご紹介
美容外科専門医である末武信宏先生。信念を持った治療・医療サービスを、さかえクリニックにて提供されています。
医学書DVD、ビデオの監修・指導や、各種講演・セミナーの出演など、活動の幅が広く、サロン等へのコンサルティングも行っています。
経歴
1987年 国立岐阜大学医学部卒業
1987年 岐阜大学医学部附属病院第一外科入局
1991年 全国主要都市の大手美容外科クリニックで若手医師の指導、チーフドクター
1996年 さかえクリニック開業
2011年 順天堂大学医学部大学院 医学博士取得
2012年 順天堂大学医学部 非常勤講師
所属学会・資格
日本美容外科学会認定専門医(第219号)
プロボクシングトレーナーJBC認定(NO.31532)
国際抗老化再生医療学会 認定指導医
平成23年3月医学博士(甲)順天堂大学医学部 病院管理学
第88回日本美容外科学会会長
NPO法人日本美容外科医師会常任理事 2005年11月~2011年3月
日本臨床発毛協会学術顧問
一般社団法人 先端医科学ウエルネスアカデミー(AMWA)副代表理事
一般社団法人 日本臍帯・プラセンタ学会筆頭理事 2014年10月~2017年5月
一般社団法人 日本視覚能力トレーニング協会監事
AROMA BEAUTY LIFE COLLEGE
日本美容外科学会誌編集委員 2005年6月~2009年3月
スポーツ医学、抗加齢医学、美容外科、美容皮膚科、創傷治療学、性感染症
日本美容外科学会
日本美容皮膚科学会
日本臨床スポーツ医学会
日本眼科手術学会
日本医療・病院管理学会
国際抗老化再生医療学会
日本温泉気候物理医学会