パイプカットは男性が行う避妊手術で、女性に最も負担をかけない確実・安心な避妊方法です。
パイプカットの避妊率は99.5%と高く、コンドームの避妊率84%、女性が服用する避妊ピルの避妊率92-97%と比較すると明らかです。
医療の発達によってパイプカット手術の成功率は99%を超えるほどになっており、感染症や内出血などの合併症リスクも1~2%と非常に低くなっています。
避妊率を見ても安全性を見ても確実・安心な永久避妊法と言えるでしょう。
Contents
パイプカットは大きく分けて二つの術式があります。
以下に一般的な手順を解説します。
切開法
1.陰嚢への局所麻酔
2.両方の陰嚢を1cm程度切開し、精管を取り出す
3.精管の一部(1~2cm)を切断・切除し、断端を糸で結紮する。電気で焼きつぶす場合もある。
4.切開部を縫合する
5.後日、傷の確認(必要であれば抜糸)。
精液検査「精管」とは精子が通る管のことで、精子を製造する精巣から膀胱側に向かって2本の精管が伸びています。電気メスで皮膚組織を剥離して、精管を出し、1~2cm精管を切除し、それぞれの断端を糸で結紮します精管には大事な動脈や神経が伴走しているため、医師の高い技術が重要になります。また切断した精管が再開通するのを防ぐため、1cm以上離してカットするなど、再開通を防ぐ工夫を行っています。
無切開 NSV(ノンスカルペル)法
1.霧状の麻酔薬を皮膚から精管周辺まで噴射する
2.先端がとがった鉗子を皮膚から精管まで刺して、直径5mmの穴をあけて精管を出す。
3.精管の一部(1~2cm)を切断・切除し、断端を糸で結紮する。電気で焼きつぶす場合もある。
4.後日、傷の確認。精液検査。
NSV(ノンスカルペル)とはメスを使用しないという意味です。切開は行わず、先端がとがった鉗子を皮膚から精管まで指して、直径5mmの穴をあけて精管を出して手術をおこないます。
穴をあけるだけなので皮膚縫合はおこないません。
狭い術野に加えて操作性が悪いという欠点があり、かえって手術時間が長くなったりするため、採用しないクリニックもあります。
術後に気を付けること
・切開した部分の傷が痛むことがある。感染症のリスクがある。
⇒痛み止めや抗生剤を処方されるのできちんと飲み終えることが重要。
・シャワーは翌日から可能
・1週間は傷を濡らさないこと、飲酒禁止
・1ヶ月間、マスターベーションによる射精は禁止
・2ヶ月間、性行為禁止
・吻合部の安静のため、陰嚢をしっかり持ち上げて生活する
日本人には馴染みの少ないパイプカット
30分程度の日帰り手術で済むクリニックが多く、女性に最も負担をかけない確実・安心な避妊方法ですが、実は日本での実施率は1%未満です。
実施率の高い上位5ヵ国はカナダ22%、イギリス21%、ニュージーランド19.5%、韓国16.8%、ブータン12.6%となっています。
これはパイプカットがカナダ、イギリス、ニュージーランド、ブータンでは公費負担となっていること。
また、キリスト教の国では性行為は子供を授かる行為であるということで、夫婦間で使うことはなく、人工流産、堕胎手術は一切できないことが背景にあります。
ちなみに「パイプカット」は日本人が作った俗語であり、正式には精管結紮術と呼ばれます。
この「カット」という語感が男性に恐怖心を与え、日本であまり浸透しない理由のひとつかもしれません。
また日本では性欲が強い方や不特定多数との関係を持ちたい方が去勢のために受ける、と誤解されている部分があります。
パイプ=精管を意味しており、ペニスそれ自体に影響を及ぼすわけではないので、性行為や性欲への影響はなく、妊娠のコントロールのため、家族計画のためグローバルスタンダードな避妊法なのです。
どんな場合に行われる手術?
パートナーと本人が望む子供の人数に達し、これ以上望まないという場合に行われます。
パートナーと本人、お二人の合意が何より大事で、配偶者の承諾書が必要であったり、お二人で初診を受けること、すでに子供がいる方のみに施術を限定しているクリニックもあります。
術後にもし子供を望んでも叶わないこともあるため、いずれのクリニックも「双方の合意」を絶対条件にしています。
しっかりと話し合いを持ち、入念な下調べを行った上で受けることをオススメします。
パイプカットのメリット・デメリット
メリット
妊娠を気にせず性生活を楽しむことができるようになることです。
前述したようにコンドームより高い避妊率で、「生」の気持ちよさを男性も女性も味わうことができます。
女性を妊娠させる心配から解放され、セックスに集中でき、男女ともにより楽しむことができます。
デメリット
直接体液が触れるため、性感染症のリスクがあります。
パートナーが複数いる場合などは必ずコンドームを使用し、性感染症対策を行ってください。
また、再婚などで事情が変わり再度妊娠を希望した際に100%再生できるわけではないこともデメリットと言えます。
切断した精管を再びつなぎ合わせる再縫合手術は存在しますが、受精機能の回復まで保証できるものではありません。
パイプカット後に妊娠させてしまうことはありますか?
パイプカットの避妊率は99.5%。0.5%(2000人に1人)は避妊できなかったということです。
これはごく稀に、精管が自然再開通するケースがあるためです。
術式により再開通しないよう処理していますが、念のため毎年精液検査を受けることがオススメです。
その他の妊娠させてしまうケースに、「術後もしばらくは精管の中に精子が残っている」という点が挙げられます。そのため、パイプカット後に数回の射精を行って精子を出し切る必要があり、不妊の効果が確かめられるのは術後3カ月ほど経過してからといわれています。その期間中に性行為をする場合には、しっかりとコンドームなどで避妊を行わなければなりません。
術後の2週間後に傷の確認、1ヶ月後、2ヶ月後の精液検査がセットになっているクリニックが多いので、必ず検査を受けて精子を排出していないことを確認しましょう。
パイプカット手術は、下記のような理由で妊娠を望まない方にお勧め
・夫婦(パートナー)同士が希望する子供の人数に達した
・妊娠し、子供を得た場合に遺伝子疾患が考えられる
・持病などを持ち、医師の診断を受けている
以上が一般的に理由ですが、中には
・奥さんが複数回の帝王切開による出産をしており、次の妊娠が危険
・奥さんが不妊症なので自分も同じフェアーな立場になりたい
と奥様のことを思いやる気持ちから手術を選択する方もいるそうです。
男性の精管結紮手術に対し、女性では「卵管結紮手術」という方法がありますが、こちらは「入院必要、全身麻酔、危険性も高く術後の苦痛も大きい」点で男性とは大きく異なります。妊娠しないため、だけのために行うにはあまりにリスクが大きいのです。
夫婦の家族計画のためですので、どちらかが行うのであれば男性がやった方がいい、というのが多くの医師の見解でもあります。
パイプカットって痛いの?
日本で主に行われるメスを使用しての「切開法」では、局所麻酔などを使用して行います。
陰嚢の左右2ヵ所に皮膚から精管周囲まで局所麻酔薬を5ccほど注射する方法が主に行われています。
とてもデリケートな、普段露出する機会の少ない陰嚢の施術ですので、他人に触られる感覚があるだけでも「痛い」と感じる方も少なくありません。
よって「痛くない」と言い切ることはできません。
パイプカット後も睾丸(精巣)から精管がつれるような痛みが継続する、という報告もあります。
陰嚢の痛みを訴える男性が2%ほどいるそうですが、精管の陰嚢に近い端を閉じないで解放させたままにしておく「オープン・エンデッド方式」で、陰嚢の痛みを最小限に抑えることができるとされています。
術中も複数種類の麻酔を使い分け、痛みを最小限にコントロールする、術後も痛み止めを処方するなど対策をクリニックによっておこなっています。
手術時間は30分程度で完了するので他の手術と比べれば簡便ですし、術後3日程度で射精も可能になるので、施術後の制限について悩む必要はありません。
パイプカット手術のウソ・ホント
よく聞かれるパイプカット手術に関するウワサに以下のようなものがありますが、これらは施術を原因として起こることはありません。
・性欲が減退する
・精力、活力が失われ元気がなくなる
・男性ホルモンが減少し女性っぽくなる
・勃起力が減退する
・射精の感覚がなくなる
・精液が少なくなる
男性ホルモンの量はパイプカット手術によって変わることはありません。
パイプカット手術を受ける患者の年齢層が30代以上に多く、ちょうどED(勃起不全)の傾向があらわれる年代と一致しているため、このようなウワサがされるようです。
精管を閉じてもなぜ精液の量が変わらないのかと言うと、精液のほとんどは前立腺から分泌されているからです。睾丸(精巣)から運ばれる精子は微量ですので、精子の量が変わったように感じることはありません。
よって射精の感覚が変わることもないのです。
よく誤解されがちですが、パイプカットは精子の通り道を切断するだけで、精液そのものの通り道はそのままです。同様にホルモンバランスに影響を与えないため性欲が無くなることもないのです。
精管結紮によって排出先を閉じられた精子は体内で自然と吸収されますので、何も問題はありません。
パイプカットをしたら元には戻せない?
パイプカットのデメリットとして、後から受精能力を戻したいと思っても戻せない、と言われています。
戻すことは絶対に不可能なのでしょうか?
「パイプカット再建術」「精管再吻合術」という施術で元に戻せる可能性はあります。
成功確率は約80%で高い確率ではあるのですが、約20%で戻らないリスクも存在しています。
日帰り手術で再建できるクリニックが多いですが、精子を出現させることはできても、精液を完全に正常化することは難しいようです。
基本的には「永久避妊法」として確立されていますので、施術の決断は慎重に行いましょう。